「もういいよ、もう来ない」
・・・最初さすがにショックでしたが、その言葉には理由がありました。
Tさんは遙々茨城町から、近くに暮らす娘さんの送り迎えで来院します。
ご自宅では、体の不自由な奥さんの介護をしながらの二人暮らしです。
しかしTさん御本人も、膝肩腰と体中つらく、体力もかなり落ちています。
年齢も80代後半、誰かを介護するにはかなり無理があります。
娘さんも長年の持病があり、手助けするにも限度があるようです。
お父さんの体の参り様を不憫に思った娘さんが、人づてに当院の噂を聞いて、3週間に一度の頻度で一緒に来院します。
・・・その度に怒鳴り合い。
「お父さん、話ちゃんと聞いてるの！？」
「うるさい、お前は黙ってろ！」
間に挟まれて、自分はしょぼーんとしています。
お父さんは耳が遠くて、時々話を聞いた振りをします。
それが、コミュニケーションを少し難しくしてまして。
「聞こえてるなら、ちゃんと返事して！」
「分かってる解ってる判ってる！」
「じゃあ先生が、今なんて説明してくれたの？」
「・・・・・」
うーん。
「すみませんね、年だからぼけているみたいで」
「うるさい、お前は帰れ！」
悪口ってのはしっかり伝わるもんですな。
まずは、御本人さんの主訴を解消へ。
膝は疼痛軽減。
肩は可動域改善。
腰回りはEMSで『機能訓練』。
写真 Tさんの『機能訓練』風景です。
掲載に当たり、娘さんに写真を見て貰った上で、許可を頂きました。
Tさん根性あります。一度決めた運動回数は絶対減らしません。途中で根を上げません。
自分のためでもあり、介護の必要な奥さんのためでもあるからでしょうか。
お願いした体操も、御自宅で丁寧に頑張ってもらえているみたいです。
3週間に一度の来院頻度でも、御本人の不断の努力によって段々と効果は積み上がっていきました。
そして4ヶ月後。
「最近、うめき声がないですね」
「そう、家でもそうなんですよ」
いつも一緒に来て施術を見ている娘さんも、変化に気づいていました。
施術ベッドやウォーターベッドへの寝起きの際、当初は痛みで苦しげにうめくお父さんが、ここ最近は動きが軽やかです。
御本人さんも周囲も自分も、『機能改善』を実感しつつあります。
そんなある日の帰り間際、次の予約を取る際の、お父さんの言葉が冒頭の一言です。
娘さんが、いぶかしげに割って入ります。
「だってお父さん、来た分楽になるでしょ？」
「・・・・・」
「また来ましょうよ」
「・・・・・」
「私は大丈夫だから」
「・・・そうか」
これ以上は、野暮ですね。
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